CROSS TALK

対談「教育」と「デザイン」

清水貴栄 x 佐藤正和 (NHK Eテレ プロデューサー)


わかってるふり、繋がってるつもりをやめて、ちゃんと面と向かって話せる場をつくりたい(佐藤さん)

ー テクノロジーの進化やそれに伴って番組制作も変化していくということを踏まえて、今後挑戦したいこと、こうしなくてはいけないな、と思うことなどありますか?

佐藤「僕は場を作りたいです」

清水「リアルな?」

佐藤「いろんな人がつながる場、を作りたいなと思っています。これは 「u&i」や「ふつうってなんだろう?」を経てそういう気持ちになっているんですけど。今ネットで世界中の人と繋がれる、繋がった気でいるじゃないですか。それで満足してそれで救われてる人もいっぱいいますが、障害のある子を見たりするとメールや通信だけじゃやっぱり本当のところはわからない。触ったり、喋ったり、一緒になんかしないと、その人のことは理解できないと思うんですよね。そういう場が今どんどん減っていってると思うんです、世の中。(スマホを指して)こういうもので繋がった気でいるから。繋がった気でいるというところに危険をはらんでいて、それで騙される人もいるし、情報の波に飲まれて自分が動けなくなっちゃう人もいるし、他愛もない一言で傷ついて自殺する人もいる。

「u&i」

「u&i」

「ふつうってなんだろう?」

「ふつうってなんだろう?」

ライブで繋がれる場を公共放送として作っていくべきなんじゃないか、って。地域の繋がりもなくなって、単身の世帯が増えていって。ネットをやっていると自分の嗜好と合った人としか繋がっていかないので、そうじゃない人との繋がりが作りにくい。障害のある人同士も全然繋がってないし、盲の人は盲、聾の人は聾、盲の人は健常者とも繋がってないし、つながる交流の場が無いために、お互い相容れない壁ができてしまったり。やっぱり一緒に何か作れたり、お話しできたりするような場を、番組なりイベントを通じて今後作っていきたい。

NHK 2020応援ソング パプリカキャンペーン

NHK 2020応援ソング パプリカキャンペーン

それが無い限り共生社会なんて絶対にできないので、もうわかったふりはやめてちゃんと面と向かって話しましょう、って。政治もそうじゃないですか。それぞれのパーティーでガチガチになってて相容れないというか。一回そういうラベルを剥がして、なんていうのかな合宿してみるとか、一緒にカレー作ってみるとか。それだけでも全然繋がれると思うんですけどね。考え方とか、言葉とかいろんなものが違っても。排除する方向ばっかりに今、行っちゃっているので。一緒になるためには共通の目標がないと繋がれないので、その場と目標を設定してあげる。それを今度パプリカのキャンペーンでもやっていきたいと思っています。

 

つくづくやり切らないと気が済まない人間の性っていうのかな、やりきって気づいた時にはもう遅いっていう。この間カンヌに行った時も各国の放送局のブースが並んだ見本市みたいなのがあったんです。一時期SNSだのVRだのを使った、テクノロジーありきでこんな新しいことやりました、っていうコンテンツが増えてたのが少し収まって。「テイクテック」ですよね、じゃあそれを使って何するの?っていう。世の中に対してどういう意味のあることすんの?っていうことに今やっと目がいき始めた。手前で考えていたやりすぎテクノロジーは別にいらないんじゃないか、と。

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科学者とかみんなそうですけど、やり切らないと気が済まない。人間の性だからしょうがないのかなという諦めもありつつ、でもどこか人間自体効率的じゃない不合理な生き物で、不合理な生き物なのに合理性をどこまでもつき詰めるとやっぱりそこでストレスを感じて、死んでしまう人もいる。今の働き方改革もそうですけど、もっと遊びを作るというか。みんな合理的なロボットではないので、もっと分相応というか人間の体にあった気持ちいい空間づくり、環境づくりっていうものをしていかないと破綻するだろうな、っていうのは目に見えている。

体は変わらないので、人間の能力に見合ったものでいいんじゃないか、っていう空気感がいつ生まれるのかわからないですけど、経済の発展ももうこれだけあれば進歩進歩言わなくてもいいんじゃないか、生きる長さを競うよりもやっぱり中身だったり死に方じゃないのか、とか。結局幸せに人生全うしたいっていうのは全人類共通していることなんでそこに立ち返った時に、何が幸せかってことを本当に深く考えたら、進歩進歩、効率効率、にはならないと思うんです。だってこれだけ効率重視の世の中でも不合理で非効率な技術はみんな心を動かされるわけで。人間という生き物とその環境がマッチする、その落とし所を早く見つけないといけないんじゃないかな、と思ってるんですけどそうはならないんですよね。

 

僕が教育に携わっているのは、子供には望みを託せるんじゃないか、と思って。大人はもう絶対変わらないけど、これからいかようにも変われる子たちに向けて、Qで言えば答えはひとつじゃ無い、とか、見つけた答えがコロッと変わったっていいんだよ、とかそういうことは子供には伝えていきたいな、と思っています」


 
 
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野球に絵画、

とにかくひとり遊びに没頭していた幼少期でした。(佐藤さん)

ー ありがとうございます。じゃ、最後に小さい時に好きだった教育番組とかキャラクターってありますか?

佐藤「僕本当に…」

清水「笑」

佐藤「何もみてきてないんです。みんなが競ってジャンプ読んでた時もファミコンに夢中だった時も、無関心で。時代にずっと乗れないできているので思い出せないんですよね」

清水「すごい」

佐藤「基本絵を描いてたのは記憶にはあって、今こういう仕事ができているのはそこが糧になっているのはなんとなく思います。あとは一人でいる時間。巨人が好きだったんで、毎日夜7時からはナイターを観るというのが日課で。学校帰ってきたら友達ともほとんど遊ばなかったので、その日の先発予想、江川なら江川のフォームを真似して壁打ちして、阪神戦だったら阪神の1番から9番までズバズバ三振とって、で攻撃になると1番の松本からまた構えを真似して応援歌歌いながら全員の打席をやっていると、正和ご飯よ〜って呼ばれて、夕ご飯食べてナイター観る。そういう一人遊びの時間ばっかりだったので、それが今役立ってるのかな、とは(笑)。漫画とかも借りて読んだりはするんですけど、絵ばっかり見ちゃって。うまいなぁ、ちょっと写し絵しよう、みたいな」

清水「笑」

佐藤「母親が裏が白い広告をいつもとっておいてくれて、それにずっと描いてて。安い紙だと表の文字とか数字が裏に透けて、それをなぞったりしてレタリング遊びをしたり」

清水「デザイナーみたいなことやってたんすね」

佐藤「何かに影響されたと言えば、巨人しかないなぁ。選手が好きだったんです。夏休みどこいきたい?って、原選手の家って答えましたね。当時の野球年鑑、全部住所書いてあったんですよ」

清水「へぇ!すごい話ですね」

佐藤「しかもタダで配られてたんですよ、プロ野球年鑑」