モーショングラフィックス展 1997-2000

〈Independent Exhibition 自主企画展〉

Exhibition - Produce + Planning + Direction + Management

Overview

Motion Graphicsにとって記念すべき激変の1997年。スティーブ・ジョブズがAppleに復帰し、Adobe After Effectsは3.1、インターネットやデバイスの発達と共にライブ空間の演出やファッション・ショーのインスタレーションなどを手がけるマルチメディア・アーティストたちが、2000年という新たな世紀を前にあらゆる表現を生み出していた。そんな頃、グラフィックデザイナーのナガオカケンメイ、映像作家の菱川勢一ら、さまざまなジャンルのクリエイターやアーティストが集い《Motion Graphics Exhibition ‘97》が開催された。

もとの始まりを辿ると、ニューヨークから帰国したばかりで当時フリーランスのクリエイターだった菱川が1996年に〈ISSEY MIYAKE〉青山店の壁に映像を投影したディスプレイ・デザインにある。ISSEY MIYAKEのロゴを3DCGを用いて動かし、ショップ店頭で24時間投影するインスタレーションを発表していた。これを偶然見たナガオカケンメイが菱川に声をかけ、映像とグラフィック・デザインの新しい表現についてしきりに語り合うようになる。1997年にナガオカと菱川は「グラフィック・デザインと映像の融合 = Motion Graphics」を定義として打ち出し、世界で初めてMotion Graphicsという言葉が生まれた瞬間でもあった。二人は〈DRAWING AND MANUAL〉を創設し、Motion Graphicsの展覧会を開催すべく活動を開始した。

AppleやAdobeをはじめ数々のメディア企業に協賛を呼びかけ、カイル・クーパー、ロバート・バーグマン=アンガー、ジョン・前田、松本弦人、谷田一郎、田中秀幸、グルーヴィジョンズなどのアーティストが参加を表明した。1997年夏、ついに第一回目となる『モーショングラフィックス展(Motion Graphics Exhibition ’97)』を開催。テーマは「フライング・ロゴ(当時、動くロゴマークをそう呼称していた)」。すでにCMなどでフライング・ロゴを積極的に使用していた企業のロゴマークの映像展示と、〈とらや〉や〈無印良品〉といったモーション・ロゴが存在しない老舗ブランドをクリエイターたちが動かして発表するという二部構成の展覧会になっており、会場の〈六本木AXISギャラリー〉の床一面に投影された。10日間で約6,000人を動員。できたばかりの小さなデザイン会社が主催する展覧会では、予想を大きく超える反響だった。好評につき翌年に開催された《モーショングラフィックス展 ’98 (Motion Graphics Exhibition ’98)》は、「バキュングラフィカ」と題し、戦後日本マンガの擬音を動かすというアイデアで、それまで静的に動きや心情をあらわしてきたオノマトペを、光や音を含む「動くモーション・グラフィックス」として発表した。参加クリエイターはグルーヴィジョンズ、ジョナサン=バーンブルック、レイザーフィッシュなど。《Motion Graphics Exhibition ’99》では、会場を東京から大阪へ移し、97年開催と同テーマで、関西を中心とする企業のロゴマークをMotion Graphicsで表現。参加クリエイターはフジワキデザイン、ブラッキー、P.U.Tなど。2000年には、東京・渋谷の〈Space EDGE〉にて、カラオケの文字を動かす「モグカラ(Motion Graphics Karaoke)」をテーマとして《Motion Graphics Exhibition 2000》を開催し、約1万人を動員。参加クリエイターはアート・デュリンスキー、松浦季里、NAMAIKI、moss design unitなど。Motion Graphicsというジャンルが十分に認知が広がったことを機に、2000年に展覧会を休止した。振り返ると、グラフィック・デザイナーと映像クリエイターの錚々たるメンツがこの展覧会に集っていたことがわかる。

20年以上の時を経て、AIなどの登場により、今までにないこれからの創作へ模索が始まった現在、満を持して2024年には普遍的で新しい日本のMotion Graphics表現を集めた「日本映像工芸展」として展覧会を開催することを企画中。

from Museum Magazine (1998)
Article

グラフィックを動かすという、従来の映像表現とは異なったアプローチを可能にしたのは、コンピューターというツールの普及と技術面での進化である。静の美を追及してきた「眼」が動を扱うとき、どの瞬間も美しく在るような、新しい映像の可能性が拡がるのではないかという期待とともに、「モーション・グラフィックス」は、コンピューターを媒体としたグラフィックから映像へ向かう新しいデジタル表現として、確かな地位を築きつつある。

昨年大きな反響を呼んだ第1回《モーション・グラフィックス '97》に続き、第2回展覧会《モーション・グラフィックス '98》が、『戦後日本マンガの「擬音」が動く!』と題され、開催された。

静止画のマンガの中で、場面の状況や感情を抽出し伝達するという役割を帯び、さまざまな動を表す文字として視覚化された「擬音」を動かす――それは「フライング・ロゴ」というポピュラーなテーマを扱った第1回に対し、マンガの擬音が動いてどうなる? と素朴な疑問と興味を抱かせながら、より純粋な表現の創造を予感させた。

閉館間際の会場に駆け込んだ瞬間、闇の中でガガガガ―――ンという大音響に撃たれた。???マークを頭にかかえて立ちすくむと、光と色と音の洪水に襲われた。それは、会場全体が呼吸するモーション・グラフィックスだった。

会場を構成するのは、天井から吊られた宙に浮く白いパネルと床から天井までのガラスのパーティションが一定の間隔をおいて交互に並ぶ2列の「壁」群、ガラスの両面に立つガラスミラー、プロジェクター、そしてスピーカーである。映像は、床に置かれたプロジェクターからミラーへ、反射して宙中のパネルへ、その映り込みがさらにガラスへ、と幾重にも重なり合いながら「壁」に投影される。無駄なものは一切存在しないシンプルな構造ながら、そこに、動き、光、音が加わるとき、空間はざわめき、まさに“動き”を得る。

「目に見えない音」から「浮いているような映像」を発想した吉岡徳仁氏は、それを、パネル、ガラス、ミラーというわずか3種類の素材で構成し、空間デザインに表現した。会場の図面自体が美しいに違いないと確信させるほどに、その見せ方、バランス、果ては収まりのディテールまでが、コンセプトに対する解として明快で絶妙であった。映像ディレクターの菱川勢一氏は、一歩間違えば会場全体が調整中となるリスクを技術面から支え、10秒ほどの16の「擬音」を等しく、作品のフォーマットを用いて編集し、さらに大きな映像と音の流れを構築した。それにより、カイル・クーパーも谷田一郎も一般公募者もただ「擬音」として存在し、観る人に、強い映像(作品)と弱い映像(解説)のうねりが生み出す時空を漂う、劇場的体験に没頭させる効果を生みだした。

静止していた平面(2次元)が動きを獲得するとき、それ自身が空間(3次元)と時間(4次元)を孕み、観る人の空間や時間を巻き込む、より体感的な表現となる。それを個々の作品に発見するにとどまらず、《モーション・グラフィックス '98》展自体がその表現として刺激的であったが、これこそが、創造するプロフェッショナルとしての活動が可能にした展覧会だと考える。   

《モーション・グラフィックス '97》に始まり、今後毎年開催されていくであろうこの企画は、自身もクリエイターである発想人ナガオカケンメイ氏にことを発する。時代の先端を見据え、常に新しく、ハイレベルな表現を、市場を視野に入れ広く伝達し、継続していく責務を負う彼らにとって、表現の場・批評の場を求めてコーディネートすることは、クリエイターとしての意志と熱意が欲した活動であろう。企画立案、資金(協賛金)獲得、参加作家人選および交渉、その後のやりとり、セミナーのコーディネート、告知活動、公式ガイド作成、会場設営、運営、広報活動、etc.。それらの雑務、経済的活動のすべては、表現者としてつくり続ける闘いと同様、デザインというジャンルをより高いレベルで発展させ、その地位を確立させるためのさまざまな挑戦と闘いの場なのである。

 業界の世界権威である国際学会「SIGGRAPH」の開催期間を狙って第1回・2回と開催するあたり、大胆不敵かつ自信のほどが伺える。

 第3回《モーション・グラフィックス '99》は形をすでに顕わしつつある。構想を明らかにするとそれに捕われるから未だ秘密裏に、という彼らの着地点そのものも、未知の表現として“動き”続けている。

(network museum & magazine project 岡 由実子さんのレビュー記事より抜粋 1998)

モーショングラフィックス展に合わせ刊行されたAXIS誌 特集「モーショングラフィックス」

98年 第二回モーショングラフィックス展で刊行された公式ガイドブック

99年開催の大阪展のポスター・フライヤーのデザイン

2000年に開催された第4回モーショングラフィックス展「ゴールデン・モグカラ」に合わせて発売されたDVD。昭和の時代にカラオケで活躍した8トラックテープのケースに入った特別仕様

1997年開催のオープニング映像

初開催となった1997年開催時のオープニング映像。映像は森野和馬氏、オリジナル音楽は薄井由行氏、ナレーションはジョン・カビラ氏が担当した。ジョン前田氏、ロバート・バーグマン=アンガー氏などの参加作家のクレジットが並ぶ。

Motion Graphics 1997 Opening Sequence
Director / Animator : Kazuma Morino
Music : USUI Yoshiyuki
Artist : Jon Kabira

1998年開催のオープニング映像

第二回、1998年開催時のオープニング映像。展覧会のテーマは「マンガの擬音を動かす」。映像は森野和馬氏、オリジナル音楽は薄井由行氏が担当した。カイル・クーパー氏、アート・デュリンスキー氏などの参加作家のクレジットが並ぶ。

Motion Graphics 1998 Opening Sequence
Director / Animator : Kazuma Morino
Music : USUI Yoshiyuki

2000年開催のオープニング映像

この年のテーマは「カラオケの文字を動かす」。オープニング映像は菱川の作品として発表された。オリジナルでつくられた楽曲UBANIの「STILL」で文字をモーショングラフィックスで表現。映像は16mmフィルムで撮影され文字はオプティカル合成で制作された。この作品は展覧会開催時期に合わせ2週間限定で第一興商より全国のカラオケボックスで配信された。

Motion Graphics 2000 Opening Sequence
Director / Animator : 菱川勢一 (DRAWING AND MANUAL)
Music : 熊野森人 (DRAWING AND MANUAL)
Artist : UBANI

Motion Graphics Exhibition ‘97 Summary Movie

©Motion Graphics Exhibition Committee All Rights Reserved.
This is a special public display for the Motion Graphics Exhibition materials. Copying or reproduction is strictly prohibited.

Motion Graphics 1997-2000 Overview Movie

特集「漫画の擬音を動かす - モーショングラフィックス展」Cosmic Base - WOWOW 1998.7.11 O.A

特集「モーショングラフィックス」ファッション通信-テレビ東京 1998.7.20 On Air

Exhibition Participating Artists & Staff Credit

  • -Exhibition Configuration Overview-

    AXIS Gallery , Roppongi Tokyo , 1997 Jul

    Chief Producer : Kenmei Nagaoka

    Space Design Director : Tokujin Yoshioka

    Technical Director : Seiichi Hishikawa

    Opening Sequence Creator : Kazuma Morino

    Theme Music : Usui Yoshiyuki

    Participation Artists

    AXIS Design / Takashi Ishizu / Yasuhiko Uchihara / Kyle Cooper / GROOVISIONS / Junji Kojima / Tanaka Katsuki / Hideyuki Tanaka / Ichiro Tanida / Hironori Terai / Norio Nakamura / Pascal Roulin & PH Studio / Ichiro Higashiizumi / Seiichi Hishikawa / John Maeda / Yasuaki Matsuki / Takuya Matsunoki / Gento Matsumoto / Kazuma Morino / Noriyuki Morihara / Robert・Bergman=Unger

    Production : DRAWING AND MANUAL

    Coordination : AXIS Publishing

    Management : Motion Graphics Exhibition Committee

  • -Exhibition Configuration Overview-

    AXIS Gallery , Roppongi Tokyo , 1998 Aug

    Chief Producer : Kenmei Nagaoka

    Space Design Director : Tokujin Yoshioka

    Technical Director : Seiichi Hishikawa

    Opening Sequence Creator : Kazuma Morino

    Theme Music : Usui Yoshiyuki

    Participation Artists

    Framegraphics / GROOVISIONS / DRAWING AND MANUAL / J.J.D / Stripe Factory / Razorfish / teevee graphics / AGES5&UP / BARNBROOK / DISTORTION

    Production : DRAWING AND MANUAL

    Coordination : AXIS Publishing

    Management : Motion Graphics Exhibition Committee

  • -Exhibition Configuration Overview-

    ATC , Osaka , 1999 Aug

    Chief Producer : Kenmei Nagaoka

    Space Design Director : Tokujin Yoshioka

    Technical Director : Seiichi Hishikawa

    Opening Sequence Creator : Seiichi Hishikawa

    Participation Artists

    AGES5&UP / Yasuyuki Okumur / Masato Okada / KOO-KI MOTION GRAPHICS /Kazuya Sasahara / Hidemune Shin / Kaname Shimonishi / Tatsuhiko Sugimoto / Soulmates Graphica / Masami Tanzi / FUJIWAKI DESIGN / Hiromi Hayashi / P.U.T / BLACKEY / Kiri Matsuura / cafe de yowaki

    Production : DRAWING AND MANUAL

    Management : Motion Graphics Exhibition Committee

  • -Exhibition Configuration Overview-

    Space Edge, Shibuya, Tokyo , 2000 Aug

    Chief Producer : Kenmei Nagaoka

    Space Design Director : Mitsuhiko Nishi

    Technical Director : Seiichi Hishikawa

    Opening Sequence Director : Seiichi Hishikawa

    Music : Morihito Kumano

    Theme Song Artist : UBANI

    Participation Artists

    Ages 5&Up / Art Durinski / 第一興商クリエイティブチーム / Gento Matsumoto and Hiroshi Majima / Groovisions / Junji Kojima / Kiri Matsuura / KOO-KI MOTION GRAPHICS / Manabu Inada / NAMAIKI / moss design unit / 100LDK

    Production : DRAWING AND MANUAL

    Management : Motion Graphics Exhibition Committee