Motion Graphics
WHAT IS MOTION GRAPHICS?
1997年にグラフィックデザイナーのナガオカケンメイと映像クリエイターの菱川勢一が「動くグラフィックデザイン=Motion Graphics」を定義し《Motion Graphics Exhibition》を開催。グラフィックデザイナーが映像表現を手にしたら。映像クリエイターがデザインを味方につけたら。Motion Graphicsというひとつのジャンルが広がり、新たなクリエイターたちが生まれる産業となることを目指してのことでした。
その後、28年以上の年月が経った今、モーショングラフィックスという名称は広く知られるようになり、無数のMotion Graphicsが発表される一方で、定義や表現がやや曖昧にもなってきました。そんな中、菱川勢一に「Motion Graphicsとは?」を聞きました。
インタビュアー: 小林隆史
Interview
菱川勢一 | Seiichi Hishikawa
photo: Toshimasa Kumagai(DRAWING AND MANUAL)
— 97年に「モーショングラフィックス展」を開催して世界で初めて「Motion Graphics」という名称や定義を発表した後、今は映像分野では当たり前のように使われるようになりました。あらためて、Motion Graphicsとは何ですか?
97年当時、「Motion Graphics」という言葉をパートナーのナガオカから初めて聞いた時に「なにそれ、アニメーションでしょ」って聞き流しました(笑)。
でも、よくよく話をしていって理解したのは、それまで存在していたアニメーションではなく、“動いているグラフィックデザイン”ということだったんです。つまり、映像の中の1フレーム1フレームが、どこを切り取ってもデザインとして成立していること。なるほど、と思いながら同時にこれは世の中に理解されるかなあと心配になったりもしました。
それを「流れるポスター」とか「呼吸するグラフィック」と僕なりに色々と考えたりもしました。
展覧会の目的は、映画監督や専門の映像作家だけの領域だった“映像制作”というフィールドに、グラフィックデザイナーたちが飛び込んでいくきっかけをつくることでした。
当時は「デザイナーが映像?大丈夫?」という声もありましたが、
結果としてそれが、新しい感性と繊細なデザインの産業を生み出す小さな種になった。
いまでは「モーショングラフィックス」という言葉は誰もが知るものになりました。ただ、最近は少し“便利な道具”になりすぎている気もします。
気軽にテンプレートを動かせば、たしかに“動くもの”はできます。
でも、本当のモーショングラフィックスとは、フレームのひとつひとつに「思想」や「美意識」が宿ってこそなんですよね。
モーショングラフィックスは「手段」じゃなくて「詩」なんだろうなあとか。
効率よりも、ちょっとした遊び心や間の美しさ。
そこに、まだ伸びしろがあると思っています。
Motion Graphics Exhibition Overview
1997年から2000年まで開催された《Motion Graphics Exhibition》。グラフィックデザイナーのナガオカケンメイ氏がプロデュースを手がけ、菱川勢一が空間構成を担当。1997年は、AppleやAdobeをはじめ数々のメディア企業に協賛を呼びかけ、カイル・クーパー、ロバート・バーグマン=アンガー、ジョン・前田、松本弦人、谷田一郎、田中秀幸、グルーヴィジョンズなどのアーティストが参加
>>More Detail「Motion Graphics Exhibition」について
特集「モーショングラフィックス」ファッション通信-テレビ東京 1998.7.20 On Air
特集「漫画の擬音を動かす - モーショングラフィックス展」Cosmic Base - WOWOW 1998.7.11 O.A
— Motion Graphicsの魅力は何ですか?
モーショングラフィックスの魅力は、まるで線や円や四角が呼吸をはじめる瞬間を見ているようなところにあります。
静止していた図形が動くと、それだけで「かわいい」と「こわい」が同居する。
まるで、グラフィックが心拍数を持ちはじめたような――そんな瞬間がたまらないんです。
面白いのは、その感情は数値化できないということ。
AIでも、マーケティング指標でも測れない“間”とか“余白の温度”。
動くデザインには、ロジックの外にある感情が宿る。
まさにそこに、デザインの「詩」としての側面が生まれます。
たとえばブランドロゴ。
ロゴはその企業のフィロソフィーや記憶、信頼や野心――
言葉にできないあらゆる意志が凝縮された「紋章」です。
そこに動きを与えると、それは単なるマークではなく、
生き物のように呼吸する存在になる。
動くロゴは、企業の“人格”を見せるひとつの舞台でもあると思います。
デザインにはジャンルがありますよね。
グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、建築デザイン。
映像にもフィクション、ドキュメンタリー、アニメーションといった系譜がある。そのどれとも違う場所に、Motion Graphicsという新しい“言語圏”をつくりたい。
映像史的にいえば、静止画と動画のあいだの“境界領域”――
まるでアリストテレスが『詩学』で語った「運動としての形相(エネルゲイア)」のように、形が動きながら意味を生成していく空間がモーショングラフィックスなんです。
最近は映画祭でも少しずつ「モーショングラフィックス部門」という文字を見るようになって、自分のことのように嬉しいですね。
ようやく、グラフィックが動くことの“哲学”が世界の中で言語化され始めた。
それが何よりうれしいですね。
Prelude|Seiichi Hishikawa
幾何学図形だけで四季を表現する実験的な映像。半透明のエレメントが舞い、重なり合い、連綿と新たな造形を浮かべていく菱川のオリジナル作品。二次元の線が立体のエレメントへ変化していく展開、上空を降下しながら撮影しているようなアングル、音楽と共に穏やかに転換していく間(ま)の取り方を繊細に思考して仕上げた。一連の幾何学的造形の動きの中には自然と人工物との共存や植物と人間、鉱物の工作、無機と有機といった対比を表現している
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Airline|Seiichi Hishikawa
簡素な線が曲がり、重なり、集まることで、色彩はうつろい、大気の流れや雲の造形が現れる。悠々と空を舞う穏やかな流れと楽曲の間。呼応し、そこに在るが、目には見えないもの。美術表現《キュビズム》のように、画面の中にあらゆる次元を集約しようと試みたひとつの表現。BPMが一定ではないクラシック曲に映像をシンクロさせることに実験的要素を取り入れた。ヴァージンアトランティック航空の機内映像に採用された
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colors|Seiichi Hishikawa(2012 Original Art)
現在、マサチューセッツ工科大学の教材になっている作品。フェルメールの絵画から色彩情報を抽出し、サウンドクリエイターのヤマダタツヤ氏によるオリジナル音楽を同期させ、有機的かつ抽象的な造形で表現したContemporary Motion Image Art。色彩構成は欧州とりわけオランダ色が強いが、間(ま)の取り方は日本独特のものを意識して仕上げた。Motion Graphicsを経て、次の映像表現を模索していた頃。当たり前にテレビやパソコンが居住空間にある中で、黒く影を放つモニターが「絵画やポスターのような存在として生活に溶け込むと、どうだろうか?」と思い立ち、つくり始めた。
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— 日本独自のMotion Graphics表現ってありますか?
日本独自のモーショングラフィックス表現――と聞かれると、頭にまず浮かぶのは、モニターでもプロジェクターでもなく、ろくろを回す手の動きなんです。
古くは縄文土器の文様、平安の蒔絵、友禅染、組紐、織物……。それらはどれも「時間を素材にするデザイン」でした。釉薬が流れ、金粉が舞い、糸が交差して模様が生まれる。その一瞬一瞬が“止まらない造形”として積層していく。これこそ、まさにモーショングラフィックスの原型なんじゃないかと思うんです。
つまり、Motion Graphicsは“現代の工芸”とも言える。コンピュータという新しい「道具」を手に入れた職人が、ピクセルという粒子を素材に、光と時間を編んでいる。マウスやペンタブレットも、もはや「デジタルの漆刷毛」や「仮想のろくろ」なんですよ(笑)。
日本の伝統工芸には、「侘び寂び」「間」「余白」といった独自の美学があります。それは、存在しないもの――“何もない”ことの中に美を見る感性です。動くグラフィックの中でも、そうした「間」や「静けさ」が表現できると、それは世界のどんな最先端の映像よりも深い呼吸を持ちはじめる。
僕が思う日本的モーショングラフィックスとは、派手なエフェクトよりも、時間の“間合い”をデザインする映像です。能の舞がゆっくりと一歩踏み出すように、書家が一瞬の筆圧で全てを決めるように、“動かす”ことよりも“止める勇気”に美が宿る。その抑制と緊張の中に、豊かな感情が立ち上がってくる。
そしてもうひとつ、日本独自の特徴は「匿名性」だと思います。海外ではアーティスト名や個性を強く打ち出すけれど、日本のデザイン文化は“作品そのものが語る”ことを重んじる。誰が作ったかよりも、“どう見えるか、どう感じるか”を大切にする。それは浮世絵にも、琳派にも、アニメーション文化にも脈々と流れているDNAです。
モーショングラフィックスもまた、その延長線上にある。技術やソフトの名前ではなく、“感覚”や“気配”が伝わる表現であること。一見無機質なデジタルの画面の中に、人間の手の温度が残ること。そういう作品こそが、世界が「日本的」と感じるものだと思います。
だからいつも制作中で思うんです。「これって、デジタルの中の工芸だな」と。道具は違えど、根底に流れているのは、“丁寧に作ること” “無駄を愛でること” “時間をデザインすること”。
結局、Motion Graphicsは最先端のテクノロジーを使った“時間の手仕事”なんですよ。それが日本の美学と重なったとき、世界にない表現が生まれる。そして、そういう表現こそが、次の時代の“文化産業”になっていく。
世界が評価してくれるのは、最新の技術じゃなく、その背景にある「美意識」という土壌なんだと思います。だから僕たちは、マウスを動かしながら、
何百年も前の職人たちと同じように――
「美しいとは何か?」という問いを、今日も手の中でろくろ回しているんじゃないですかね。
— Motion Graphicsはこの先どう発展していくのでしょうか?
ふと「モーショングラフィックスって、いったい何の役に立っているんだろう?」と思う時があります。アートでもデザインでも、社会との接点を失った瞬間に存在理由が薄れていく。だからこそ、僕はいつも“美しいだけでは終わらない何か”を探しています。
モーショングラフィックスの可能性は、まだ半分も掘り起こされていないと思います。単なる表現手段ではなく、社会のUIになっていく。
たとえば医療の現場。
モーショングラフィックスが、難しい手術手順を直感的に可視化したり、患者に治療の流れを“体感的に理解させる”ためのツールになったりするかもしれません。
またITや都市インフラの分野では、複雑なデータや交通の流れ、エネルギーの循環を、動的なビジュアル言語で見せることができる。道路の上を走る線が、エネルギーや情報の血流のように可視化される世界――
それはまさに“情報の生態系をデザインする”仕事です。
UIやUXのデザインでも、モーショングラフィックスはすでに欠かせません。ボタンが押されたときの「わずかな動き」ひとつが、人の感情を左右し、ブランドの人格を形づくる。つまり、動きは新しい言語なんです。かつて文字や絵が人と人をつないだように、これからは「動き」が人とテクノロジーをつないでいく。
思えば、モーショングラフィックスとはいつも“翻訳”の技術でした。感情を可視化し、時間を形にし、データを感じさせる。その翻訳能力が、これからの社会でこそ必要とされるのだと思います。
だからこそ、この分野が「なくなるには惜しい」と感じるのです。むしろこれからは、テクノロジーと人間の中間領域をつなぐ触媒として、医療、教育、インフラ、AI、都市開発――あらゆる領域に“動くデザイン”が浸透していくでしょう。
僕はそんな未来を想像します。無機質な情報がやさしく動き出し、人の心が少しだけ軽くなる世界。それが、モーショングラフィックスが次に果たす“役割”だと信じています。
そして最後にひとつ。
モーショングラフィックスの未来を決めるのはテクノロジーではなく、
「人のまなざし」だと思うんです。
美しく、やさしく、少し楽しく。
その視点がある限り、この分野はきっとずっと拡張していくと思います。
画像出典 :Colbase https://colbase.nich.go.jp
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